SHIENA WORLD

COLUMN
脂質ホテル

第1章 我々は何処から来たのか

18.02.01脂質ホテル

感性も太るのか!? 

最近始めた、
慣れない筋トレによる筋肉痛に悩まさせれながら
(若い時より回復が遅い)、
わたしは家のソファーで、
コーラ片手にアップルTVで映画を検索していた。

ところが、30分探しても、60分探しても、
観たい作品が無い。

人間56年も生きていると、
ちょっと映画好きなら1000本近くは観ている。
ある程度目が肥えてくると、
数ある作品リストを眺めても、
どれも同じに思えてなかなか興味が沸かない。

良く言えば、経験値の増大。
悪く言えば、感性の肥満。
若い頃の様に、
世界に対する新鮮な驚きが減った。
大人やプロにありがちな感性の鬱状態か?
目が肥えたのではなく、感性のメタボか・・・。

ちなみにわたしは、
アカデミー賞審査員を目指し、
小学3年から
ノートに映画評論を
書き溜めていたような少年だった。

しかし、人生というものは、
本人の夢や努力以外に「縁」も作用して、
そう簡単に少年の頃の夢のようにはならない。

わたしは56歳になり、
映画評論家ではなく、
エステの会社を経営していた。

エステの経営は、
途中、震災も不景気もあったけど楽しかった。
経営の努力や勉強もした、
多くの同業者が消えてゆく中で、
わたしたちは生き残り、
ある程度豊かになっていた。

でも一つ大きな問題があった、
わたしは太った。
エステの社長がデブではマズイ。

わたしは、カラダのデブもイヤだけど、
感性のデブは、もっと許せない!

 

大人が本当に納得できるような、
世間一般の噂や、
無責任なマスコミが煽るまやかしや、
業界では暗黙の了解になっている人々を無視した嘘、
なんかではなく、
信頼に足る、
科学的根拠に基づいた理論はないものだろうか?
そして何より、
本当に効果を実感できる方法は無いのだろうか?

50代の経営者に、そこら辺の子供だましなど、
通用するか!

わたしは、本気だった。

 

 

 

 

でも翌日、
わたしは
おみくじを引いていた。

 

横濱媽祖廟(よこはま まそびょう)
という中華系の廟だ。
おみくじ 第99番 上上
貴人に出会うは不遇さすらいの祈り。
静かな交情のうちに親しさを増す。
一旦出世して旧友を招けば、
良馬の走ること四通八達なる如くならん。
 

どういう意味だろう?
調べてみると、
位の高い人に出会うことが出来れば、
あなたの魂が、
何かを探してさすらっていた旅は終わり、
人との繋がりを、
静かに積み上げるなら親しさが増し、
いちど出世しても、
威張ることなく旧友を大切にすれば、
すべてが上手く行くだろう。
というものだった。

横濱媽祖廟は、横浜の中華街にあり、
その筋の人、つまり科学とは対極の不思議系、
運命やスピリチュアルを信じる人には有名なスポットらしい。 

「媽祖」は、北宋時代に実在した福建省・林氏の娘であり、
生まれて1か月も泣き声をあげなかったため、
『林黙娘』と名付けられたが、

小さいころから才知に長け、
10歳のころには朝晩の念仏を唱えるようになるなどした[4][5]
28歳のときの9月9日、修行を終えて天に召され神になり、
海上を舞い難民を救助する姿が見られたとされ、

人々はを建て護国救民の神として祀るようになり、
その神通力は国中に知られることとなって
歴代皇帝も諡号で敬意を表するようになった[4]
その後、航海を守る海の神のみならず、
自然災害や疫病戦争盗賊などから護る神として
中国・台湾のほか華僑が住む世界各地で信仰されている。
とウィキペディアに書いてある。

経営者という人種は柔軟で、
科学も占いも、時に同列で扱う人種だ。
効果があるのなら、結果が出るのなら、
取り入れるのだ。
勿論、数打てば当たる式ではなく、
それなりの根拠は押さえる。
しいて言えば、
フィールドワーク系社会学者が近いかも。
だから、生存能力が高いとも言える。

ところで貴人って位の高い人だよなぁ、
いったいそんな人何処にいるの?
 

わたしは、横浜から高速に乗り、
ベイブリッジを抜け、
いつも考え事をするときのように、
首都高の環状線を周回しながら、
おみくじの意味について考えていた。
そもそも「運命って何?
科学的に言えば、遺伝のこと?」
 

わたしの車は、
フォルクスワーゲンタイプⅡ、1969年製。
今でいうワンボックスカーの古いガソリン車、
ハンバーガーの移動販売などで見かけるやつだ。
占いにもあった様に
「魂が何かを探してさすらっている感」のある、
どこかロードムービーの風情がある車、
こんな感じだ。

 

都心環状線に新しく出来た山手トンネルから、
大橋ジャンクションに入ると、
路は大きなループを描きながら2周回しながら登って行く。

ラジオからは横浜のFMとは違う、
聞きなれない番組が流れている。
普段耳にするテンポとは微妙に違うので新鮮だ。 

それにしてもこのトンネルは、
オレンジ色の光が延々と続いて目がくらむ、
まるで子供の頃ピノキオの絵本で見た、
クジラのお腹に入って行くシーンのようだ。

長いトンネルのせいか、FMが雑音でとぎれる、
「今日のゲストは〇×ΩΣγ・・・、でしたγЖ△このあとは・・・、
トンネルは、
さらに大きく右へカーブしたまま上に登って行く。
ハンドルを取られない様に、集中していると、
突然視界が開け、
ラジオから妙にハッキリとした声が流れてきた。

「ようこそマテリアルワールドへ!」

寄りみち