SHIENA WORLD

COLUMN
脂質ホテル

第3章 我々は何者か

18.02.01脂質ホテル

ホテルのオーナー

 

名前からして、ギトギト感満載の胃もたれしそうなホテルかと思ったら、

「脂質ホテル」は、想像していたよりも遥かに素晴らしかった。

 

チェックインを済ませ、夕食に1Fのテラス風レストランに着いた時には、

すでに21時を過ぎ、ラストオーダーギリギリだった。

遅い夕食だから胃もたれしない様にと、麺類を探したがメニューにはなかった。

 

ウェイターを呼んで相談してみると、

「炭水化物より、お肉の方が消化にいいのですよ、

炭水化物は胃に4時間以上残りますが、お肉は1時間でなくなりますから」

「えっつ、そうなの~」

グリーンの目をした彼は、名札に「ヒロキ」と書いてあり、

息子の名前と同じだったので親しみを感じた。

ヒロキに勧められるままに肉を食べ、糖質が少ないからとハイボールを飲みながら、

庭を眺めていると、一台の白い車が入ってきた。

何処かで観た気がすると思った、そうだ昼間のポルシェだ。

暗くてハッキリしないが、フロントサイドにHybridという文字が見えた気がした。

でも、そんな訳ないか・・・。

 

ポルシェ911ハイブリッドはまだ「この世」にはない、

もしあれば、ここは「あの世」ということになるかも知れない・・・。

理由は、911のコンパクトなボディーにエンジンとモーターを共存させるのは、

不可能ではないが、ポルシェが納得するパファーマンスには程遠い。

さらに、911の古くからの熱狂的なファンは、電気など911ではない、

と言う声も多いようで、2017年開発は一旦見送られたからだ。

 

まあHybridは気のせいだろうと、ハイボールのお代わりを頼むと、

さっきのウェイターとは違う男性が近づいて来た。

「これは、ホテルからプレゼントさせて下さい、
昼間、炭水化物大通りでお見掛けしましたよね、
脂質ホテルにおいで下さりありがとうございます」

紳士は、ホテルのオーナーだと自己紹介をした。

 

 

レストランは白を基調にしたシンプルなつくりで、

私とオーナー、そして壁に大きなゴーギャンの絵があるだけだった。

私たちは、いろいろな話をした。

 

わたしはエステの経営者であること、

でも太ったということ、

筋トレやダイエットに対する疑問、

人生や体形は運命なのか、ということ、

だとしたら運命とは何なのか、ということ、

最近観たい映画がない、と感じていること、

今自分には何かが足りない、次の方向性を探していること・・・。

 

こんな話もした。

今年、30年ぶりに腹違いの弟に再会したこと。

わたしは親の離婚で、3歳から父とは別の人生だった。

父の再婚先で、弟は生まれた。

 

わたしは父親と大学入学時に一度会ったきり、その後の消息を知らず、

青山で小さな会社を経営していて、最期に会った当時、

ちょうど今の私と同じ50代頃、随分割腹が良かったが、

晩年は膝を悪くし杖を使っていたこと、

最後はガンで3年前に亡くなったということ、

父親が生前、本を出していたこと、

偶然にも私の住む街にお墓があったこと。

 

私とは、まったく別の個性だと思っていたし、

別の人生を送っていると思っていたが、

私は文章を書いたり、会社を経営したりしている。

別に父親を意識したことは全くなかったのに。

 

これは、いわゆる「縁」と言うものなのか?

いったい、縁とは何なのだろうか?

 

その後、弟とは何度か会うようになり、

夫婦も円満で幸せそうに見えたが、

170センチなのに、数年前は90キロあったそうで、

糖尿病で、今はカロリー制限をしている、

そして糖尿病自体は治らない病だと。

「お兄さんも遺伝だから気を付けた方がいいよ」と言われたこと。

 

遺伝か・・・、縁と遺伝は無関係ではないのかも知れない。

たしかに体質やある種の才能(スポーツや音楽や文章)は遺伝しやすいことが、

科学的にもわかっている。

ならば、その人がどんな人生を送るのかも、遺伝と無関係ではないのだろう。

それにしても、もしこの世に「太る縁」なんてあったら嫌だなぁ~、

と、ちょっと抵抗してみたくなり「デブと縁を切る旅」に出た、という話もした。

 

 

「私にも貴方と同じような時期がありました、やはり50代でした。

おそらく彼にもそういう時期があったのでしょう、

オーナーは壁の絵を指しながら言った。

【我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか】

ゴーギャンが54歳のときの絵で、遺書代わりとも言われています。

 

当時わたしは体重が90キロありましたが、一年で20キロ落ち、

それ以来、今日まで変わりません。

でもダイエットをしたわけではないのですよ。

より健康になっただけなのです。

 

もし良かったら、明日私の車でご一緒しませんか?

何かお役に立てるかもしれません」

 

オーナーは60代前半にも見えるが、今年70歳だという。

その若さは、一体どこから来るのだろう?

ダイエットでなく体重を20キロ落とせるの?

それと、あの911はハイブリッド?

わたしは、もっともっと知りたくなった。

「是非お願いします」

寄りみち