脂質ホテル

第4章① 朝食
18.03.27脂質ホテル
翌朝私は、
レストランのテラスで朝食をとった。
朝食と言っても、コーヒー1杯だけだ、
昨夜オーナーから指定された朝食だった。
運んできてくれた
ウェイターのヒロキによると、
チベット風だという。
コーヒーにグラスフェッドバターを
たっぷり入れ攪拌したものだ。
これが意外に美味しい。
ヒロキも毎朝これだけで、
昼までお腹が空かないのだという。
彼は私と同じくらいの身長、
170センチぐらいだろう、
40歳でわたしより若いとはいえ、
わたしが40の時よりもはるかにスマートだ。
頭の回転もよく、副支配人だそうだ。
オーナーの911は、
とても静かに発進するが、加速は素晴らしく、
まさにハイブリッドの特徴を備えていた。
どうしてここに911ハイブリッドが
存在しているのだろう?
わたしの気持ちを察したかのように
オーナーが話し出した。
「実は、人間もハイブリッドなのです。
狩猟時代は、脂質がエネルギー源だったのですが、
農耕時代から、
糖質をエネルギー源に使うことが増えたのです。
「農耕時代からですか」
「一万年ほど前、穀物を食べるようになったのです。
本当は糖質と脂質どちらのエネルギーも使えるし、
実は糖質の方が、いろいろ害があるんです、
車のガソリンのように。
でも現代人は糖質にすっかり慣れてしまいました」
「慣れてしまった?」
「そうです、
ひとつは主食と言われるようになったこと、
もうひとつは、
糖質には中毒性があるからなのです」
「中毒性ですか」
「ええ、麻薬やアルコールと同じ中毒性があります」
「だから、簡単にはやめられない」
「そうです」
車はバイパスを抜け、
炭水化物大通りに入った。
改めてこの街を眺めて見ると、
人々は、どこか酒に酔っているような、
中毒、つまり依存症にも思えなくもない。
「ところで、
糖質にはいろいろ害があるって・・・。」
「ええ、あれが見えますか?」
この街では、
あちこちで人々が小競り合いをしている。
何処かイライラしているし、
我慢が出来ない、注意が散漫な感じだ。
あるいは、自分のことで、
いっぱいいっぱいなのだろう、
周りがよく見えない人、
個に入り、人との関係に距離を置くことでしか、
自分を守れない人も多いようだ。
それらが全体の空気を
作っているのかも知れない。
結果、この街全体の
マナーが悪いのかもしれない。
「これが糖質の及ぼす
さまざまな害、ですか」
「彼らの状態というのは、
実は元々の性格ではなく、
主な原因は食べ物です。
糖の取り過ぎは、
太る等スタイルの問題だけでなく、
精神に及ぼす影響は大きいのです、
当人はその事に無自覚ですが」
「たしかに、
無自覚が一番怖いですからね」