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COLUMN
脂質ホテル

第4章③ タンパク質の街

18.05.06脂質ホテル

タンパク質の街

911はスタンドを後にすると、
炭水化物の街を抜け、
タンパク質の街に入った。

この街に来てみると、
炭水化物の街が、
どこかフワフワしていて、
人々も街も、
モヤがかかっていた事が良くわかる。

というのも、
このタンパク質の街は、
妙にハッキリしているからだ。

突き抜けるような青空に向かって、
こぶしを突き上げるネオンサインの
スポーツジム、

それぞれの通りや広場には、
上腕三頭筋通り、
大腿四頭筋大通り、
ハムストリングス広場、
と言うように筋肉の名前がついている。

ジムの横には大殿筋シネマという、
強そうな映画館が4つ並び、
ロッキー1、2、3、4が上映中だ。
Tシャツ姿のたくましい男たちが、
チケットを買っている。

 

「昨夜、最近観たい映画が無い、
と言っていましたよね」

「ええ」

「例えば、
映画は作品によって全部内容が違いますよね、
当たり前ですが。
もしオススメの映画が、
内容ではなく、長さに重点が置かれていたら、
観る気になりますか?」

「いや~、やっぱり内容ですよね」

「意味ないですよね、長さには。

でも、映画ではあり得ないことを、
食事では重要視しているのです。
栄養素の働き、つまり内容を無視して、
総カロリー重視なのです」

「なるほど、変ですよね」

 

「この街は、カロリー重視なのですが、
カロリーというのは、
単にそれを燃やすのに、
どれぐらい熱量がいるかの尺度で、
ひとは、なぜ太るのか?
の本質的な解答にはなっていません」

「映画を長さで判断するのと同じ。
という事ですね」

「カロリーという考え方は、
とても物理学的なとらえ方で、
生物のメカニズムに、
そのまま物理法則が
適応しているわけではないのです」

カロリー式のダイエットの
基本的な落とし穴、ということか。

「食品とは、
カロリーのような量の問題よりも、
その栄養素の働き、
つまり情報が重要なのです」

どの映画を観るか、
どんな本を読むか、
どんな人と付き合うかは、

ひとの知性や人格形成、
将来に大きな影響があるように、

どんな栄養、
つまり情報を身体に取り入れるかは、
人格や将来に、
大きな影響があるという事か。

 

「ところで、
この街にはパワーがあると思いませんか?」

「たしかに、
パワーがみなぎっていますよね、怖いぐらいに」

「人のパワーというのは、
筋力のパワーだけではありません。
もっと、重要なパワーがあるのです、
生きてゆく上で」

「筋肉系パワー以外のパワーですか」

 

「ええ、
それはトレーニングでは得られません、
方向性が違うのです。
美容という概念が必要です」

「美容! ですか」
「ちなみに、筋肉美ではないですよ」

 

「いずれにせよ、
貴方は、
貴方の食べてきたもの、なのです。
ダイエットするためだけでなく、
より健康で、より美しくなるためには、
食べるものを積極的に選ぶべきです」

わたしは、
ゴーギャンの絵を思い出していた。
「我々はどこから来たのか、
我々は何者か、
我々はどこへ行くのか」

我々は食べたものから出来ていて、
我々は選んだ食べたもによって、
然るべき未来へ到達するのだ。

 

 

 

 

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